自転車百哩走大王
自転車選び =
 理想を実現、オーダー車

 予算無制限、理想の自転車がほしい。そんな人にはオーダー車
 
最近のトレンド
 サイクルモードで人気のブースが「匠のコーナー」。国内の手作り自転車工房が軒を連ねる。
2012年では、ケルビムやレベル、マキノ外国の高級ブランドは、所有する喜びを与えてくれる。その場合、アルミフレームよりは、振動吸収がよいとされるカーボンフレームがおすすめ。
 ただし、外国ブランドでも廉価普及価格帯モデル(15万円以下のほとんど)は、本国以外で作られたOEM製品だったりする。あこがれだけで買うと「がっかり」することになるので、要注意。
いつかはフルオーダー
 人間の出力は、0.3馬力ともいわれる。あの、出前に使われるHONDAスーパーカブだって10馬力はあるんですぜ。僅かな力を最大限発揮して、8時間走ると、東京から静岡まで行ける。走りを(命も)ゆだねる自転車だから、納得いく道具を使いたくなるよね。

 そう、思い至ったら、フルオ−ダーしかない。

 センチュリーランは走行時間が長く、場合によっては雨中や雨上がりを走る。その際、マッドガード(泥よけ)がないと背中から頭まで盛大に泥水をかぶる。ハネが上がり、ウエアから髪の毛の中までドロドロになる。よって、お金さえ何とかなれば、ロードバイクにマッドガードを装着した「スポルティーフ車」が、実におすすめだ。この車種は、いまやどこのメーカーも作っていない。自転車専門店や小さなサイクル工房(職人が手作りで自転車を作る)へオーダーするしかない。

 さいわい、我が国には、良いものを作ろう、個性的なものを作ろう、と自転車づくりに命をかけている職人がいる。各人の脚力を最大限引き出すという、機能的な側面はもちろん、自分だけの自転車なんだという満足感をどれだけ感じてもらえるか、ということを大事にしている人たちだ。一度、工房を覗いてみよう。こだわりとは? 走りやすい自転車とは? 職人の熱い言葉を聞いてみては、どうだろうか?

テスタッチ
   おすすめは、ロードレーサーの「YAMATO MCM」フレームで組む自転車。
    フレーム価格は、カーボンフォークのモデルでで169,500円
ラバネロ
   おすすめは、エキップ(クロモリ=スチールパイプ、部品は標準でシマノ105) 約25万円
ケルビム
   おすすめは、UL-T(クロモリ、部品はシマノアルテグラ仕様で) 328,403円
           RFロード(クロモリにカーボンフォーク、部品はシマノアルテグラ) 約311,035円
細山製作所
   本当の意味でオーダーメイド。店主と相談を重ねて自転車の仕様が決まる。こちら


 オプションでグレードアップは、際限なし。ブランドものの腕時計を買う、くらいの決心があれば、日本を代表する職人の惚れ惚れする逸品が手にはいるのですがねえ。 
オーダーのメリット、特徴とは
 デロ・デ・リタイヤ渋峠ステージの帰り、長野新幹線の車中で、会員の高宮氏が問うて曰く、
「オーダー自転車って、そんなに良いモノなのか?」
「なぜ、事務局は、オーダー自転車にこだわるのか?」
「キャファやプロジェクトMの自転車って独特だが、そのメリットは?」
う〜ん、何がよいかって!? ココで改めて整理してみたい。

まず、マスプロ車は、誰もが乗れるように最大公約数で作られた自転車だ。
一方のオーダー車は、自分だけに合わせられた、世界で唯一の自転車だ。
そこが違う。
 身長から、体重から、手足の長さから、体の柔軟性から、体力から、一人として同じ人はいない。だとすれば、道具に乗って、初めてパフォーマンスを発揮するサイクルスポーツでは、体と道具のマッチングが非常に重要だ。特に、事務局のように、身長180cmを超える人や、逆に身長155cm以下の人に合致したサイズの市販自転車は、皆無だ。「え、カタログには、乗車可能って書いてあるよ。」

 確かに。でも、あれは可能な数値で、最適の数値ではない。ステムを替えたり、サドルを上げたり、後ろに引いたりで、何とかやりくりしたら、まあ、乗れることでしょう。あれは、そういう数値なのである。

 実際、お店に行ってみると分かる。大手の店でも、売り場にあるのは、SとMとLの3サイズ程度である。気の利いたブランドでも、480、500、520、540、560の5サイズ程度である。これは、驚くべきことである。ランニングにたとえると、シューズのサイズが3種類しかないのと同じ。「靴はこれしかないから、多少ブカブカでも大丈夫。つま先に詰め物すれば走れます。きついときは、我慢してください。」そういわれているようなモノだ。ハンドル幅やクランクの長さなどは、元々のサイズで売られることがほとんどだ。

 それをだ、キャファなぞへ行けば、丸1日かけて、オーナーの体格、走り、経験、用途、仕様をじっくりと会話する。途中、10時のコーヒーが出て、昼食にお好み焼きが出て、おやつにたこ焼くが出て、やっとオーダーが固まる。

 プロジェクトMの松永さんでも同じ。まず、採寸する日を予約する。突然では、だめ。体格を採寸し、用途を話し合い、その用途にあった工作や部品構成を話し合う。決めるべき事項は30項目、いや60〜70項目くらいあるだろう。塗色だって何十色ある色見本のから選ぶことになる。塗り分けも自由自在だ。最低、半日コースである。来店時に出されたエスプレッソは、当然冷め切っている。そういうモノなのである。マスプロ車とオーダー車では、かくも、サイズや使い方に関する扱いが違うのである。
 
 次に、マスプロ車は、そこそこの経験の店員さんでも売れる。
一方のオーダー車は、作り手の名が残るから、蓄積されたノウハウを注ぎ込ん
で売る(作る)。この、「そこそこ」と「注ぎ込む」ところが、違う。
 具体的には、オーダーの際、店主はオーナーの発言を注意深く聴く。それは、見栄があったり、気後れしたりで、お客が「ふかして」いる部分を選り分ける作業なのである。「ふかし」を注意深く割り引いて、頭の中で自転車の作りを瞬時に計算する。「このお客には、こういう作りだ!」と。

「いや〜、私なんかまだまだですよ。」
 =「経験を聞くと、この人、かなりだな。力が逃げないように。」
「どこの大会で何位でした。!ガンガン行けるのを!」
 =「たいしたことないな。少し柔らかくして、ゴール前で脚を残せるように」

 脚力と走り方にあった自転車の作りを、ササッと頭の中に描き出し、それをオーナーに示して、実際の走りに適合するよう提案する。ここのところが、いわゆる「ノウハウ」で、何が何でもお客のいうとおりには作らないのである。これがすごいところで、お店の修正が入って上で、結果として、オーナーが「こういう自転車が欲しかったのです。」という満足に結びつけていく。



 第3に、マスプロ車は、同一製品なら、素材や工作が同じだ。それに、思い切った新形状は取りにくく、塗色を別とすれば、平凡な形が多い。一方のオーダー車は、一見同じ製品でも、オーナーに合わせて、走りを楽にする小細工を効かせる。さらには、大胆な工作や造形も可能となる。
 実際、オーダー車では、パイプの径や肉厚、溶接(接着)の方法、ワイヤー通しなどの小物の位置、あれこれを微妙に変えて、最適化を図る。ショックの吸収やオーナーのペダリングにマッチしたハンガーの反応、使う場面に応じたハンドル特性など、細部を微妙に違えることで、扱いやすさを生み出していく。ここが、何となく安心できる乗車感覚を生み出していく。

 さらには、リヤサスのついたロードバイク、シートパイプの省かれたロードバイクなど、新たな提案を持つ自転車を手にすることができる。

 例えば、事務局所有のリヤサス付きロードバイク。コンセプトは、「体を揺さぶる路面からの振動は、それだけで筋肉を疲労させる。だったら、人間が自転車から受ける振動を低減してしまおう。それには、リヤサスだ。しかし、BB軸とリヤサスのスイングアーム軸が同一位置だとパワーをロスする。それならその軸をずらせばいい。スイングアーム(チェーンステイ)の途中にBB軸を置けば、踏み込んだときリヤサスの沈み込みがなく、パワー減退を防げる。」そういうことから、サスが付けられた。

 このバイクで2000年に東京〜糸魚川を走ったところ、それまで15時間かかったものが、何と13時間を切る結果が出た。もちろん、大王7原則を守っての話しですよ!踏んだ力が100パーセント駆動力になる、そういう脚とタイヤが「直結」したかような感覚が味わえた。不思議なバイクだ。そして、このバイクは日本に10〜20台しかないそうだ。そこら辺の有名ブランドの高級車よりも、遙かに希少価値があるといえる。

 初め、見本車を見たとき、「うそだ、こんなゴツゴツした造形の自転車で、楽に速く、走れるわけがない。」と感じた。しかし、店主が関西弁で「ええで〜、ええで〜。ここがこうなってああなるから、ほんま楽や。絶対オススメや。」と熱弁をふるう。その熱意に負けて、清水の舞台から飛び降りた。
結果、大正解であった。

 プロジェクトMでいえば、メールのやりとり数十回。数年越しの相談で、双方の考え方が一致し、メルクスオレンジ号ができあがった。カミさんよりも、店主にメールした回数の方が遙かに多い(ごめんなさい)。できた自転車は300m走っただけで、自分の求める乗り味を持っていることが分かった。どんぴしゃりだ。そして、練習不足で参加した川越〜直江津。苦しかったけれど、メルクスオレンジ号が疲労を最小限にしてくれ、日本海の夕陽まで導いてくれた。「クルクル漕いでいれば、そのうち直江津まで行けるさ〜」と自転車が自分を励ましてくれた。そういうモノなのである。

これが、キヨミヤザワやアルプス(トーエイ)の自転車であれば、なおのことオーナーは「物語り」まで手にすることができる。伝説的なビルダーによる、自分のための自転車。「所有する喜び」も十二分に満たしてくれるであろう。